東京地方裁判所 平成4年(ワ)16889号 判決 1993年9月30日
原告 セザール御殿山管理組合
右代表者理事長 竹内芳夫
右訴訟代理人弁護士 宮岡孝之
被告 株式会社セザール
右代表者代表取締役 滝井治仁
右訴訟代理人弁護士 田村護
主文
一 被告は、原告に対し、別紙物件目録(二)記載の建物についてなされた東京法務局品川出張所昭和五四年一〇月六日受付第三五〇九三号所有権保存登記の抹消登記手続をせよ。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを二分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
一 被告は、原告に対し、別紙物件目録(一)記載の駐車場についてなされた東京法務局品川出張所昭和五四年一〇月一七日受付第三六一二一号所有権保存登記の抹消登記手続をせよ。
二 被告は、原告に対し、別紙物件目録(二)記載の建物についてなされた東京法務局品川出張所昭和五四年一〇月六日受付第三五〇九三号所有権保存登記の抹消登記手続をせよ。
第二事案の概要
一 原告の主張
1(一) 別紙物件目録(一)記載の駐車場(本件駐車場)は、その一棟の建物(通称「セザール御殿山マンション」)(本件マンション)の一階に存するが、構造上の独立性及び利用上の独立性を有しないものである。
(二) しかるに、被告は、本件駐車場について、東京法務局品川出張所昭和五四年一〇月一七日受付第三六一二一号をもって所有権保存登記を受けている。
2(一) 別紙物件目録(二)記載の建物(本件居室)は、本件マンションの一階に存するが、構造上の独立性及び利用上の独立性を有しないものである。
(二) しかるに、被告は、本件居室について、東京法務局品川出張所昭和五四年一〇月六日受付第三五〇九三号をもって所有権保存登記を受けている。
二 被告の主張
本件駐車場及び本件居室はいずれも構造上の独立性及び利用上の独立性を有する。
第三当裁判所の判断
一 証拠(<書証番号略>)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
1 被告は、昭和五四年七月ころ、別紙物件目録(一)記載の一棟の建物(通称「セザール御殿山マンション」)(本件マンション)を建築した。
2 被告は、本件マンションの居室八八戸を分譲し、その区分所有者は原告セザール御殿山管理組合を設立している。
3 被告は、本件マンションの一階に存する別紙物件目録(一)記載の駐車場(本件駐車場)と別紙物件目録(二)記載の建物(本件居室)を、自己の所有として、本件駐車場につき東京法務局品川出張所昭和五四年一〇月一七日受付第三六一二一号をもって、本件居室につき同出張所昭和五四年一〇月六日受付第三五〇九三号をもって、それぞれ所有権保存登記を受けた。
本件駐車場は別紙図面の赤線で囲まれた部分であり、本件居室は別紙図面の青斜線部分である。
4(一) 本件駐車場は、表側(道路側)から向って左側の面はコンクリート壁であり、奥側の面は、左記のとおり一部開口部分はあるものの、その余はコンクリート及びブロック壁であり、右側の面は、一部に鉄製の非常扉があるものの、その余はブロック壁であって、右各壁はいずれも天井まで設けられている。
奥側の面のうち、別紙図面のアイ間は、幅約一・五メートルほど開口していて、同所から中庭に出れるようになっている。本件駐車場の表側には壁等の隔壁は設けられていない。
(二)(1) 本件駐車場内の向って左側の壁には分電盤が設置されており、ポンプ室に出入りするための鉄製扉もある。また、天井には配管があり、床面には、地下貯水槽点検のためのマンホールが数個、排水枡が二個ある。
(2) 本件駐車場は、その相当部分が有料駐車場(八台分)として使用されており、残余の部分が本件マンションの居住者のための有料自転車置場として使用され、また、ごみ用ポリバケツ置場としても使用されている。本件マンションの居住者が右ポリバケツ置場にごみを置きに行く場合、必然的に本件駐車場内に入り、これを通行することとなる。更に、本件駐車場は、本件マンションの中庭に行くための通路としても使用されている(本件マンションの居室から中庭に行くには、外部非常階段を使用しない限り、本件駐車場を通らざるを得ない。)。
しかし、右ポリバケツ置場は、もともと本件駐車場外(別紙図面◎の位置)に設置されていたごみ置場が狭くなったこと等から、居住者の要望を容れて、もとの自転車置場を改修して増設されたものであり、また、前記約一・五メートルの開口部分も、もともと壁で遮断される予定であったが、居住者の中庭への往来の便宜等を考えて、工事の途中で変更されて開口されたものである(もとは、一〇六号室の前の通路の一部が開口される予定であった。)。
5 本件居室は、本件マンション一階の管理事務所に隣接して設けられているが、本件居室には廊下に通ずる固有の出入口はなく、右管理事務所を通って廊下に出る構造となっている。当初の予定では独立した出入口が設けられることとなっていたが、その後これが変更されて現在のようになったものである。
現在、本件居室は、本件マンションの管理人夫婦の居宅として使用されており、右管理人は、被告会社の関連会社の使用人である。
以上の事実が認められる。
二 判断
1 本件駐車場について
(一) 建物の区分所有等に関する法律一条にいう構造上区分された建物部分とは、建物の構成部分である隔壁、階層等により独立した物的支配に適する程度に他の部分と遮断されており、その範囲が明確な建物部分をいい、必ずしも周囲すべてが完全に遮蔽されていることを要しない。
これを本件についてみるに、本件駐車場は、前認定のとおり、その三方がコンクリート壁ないしはブロック壁で他とほぼ遮断されており、表側(道路側)には壁はないものの、その範囲は明確である。そうとすると、本件駐車場は、法一条にいう構造上区分された建物部分にあたるものというべきである。
たしかに、原告主張のとおり本件駐車場の奥側はその一部が開いていて中庭に通じる構造にはなっているが、右開口部分は、幅が約一・五メートル程度に過ぎず、未だ右結論を左右するには足りないものというべきである。
(二) また、たしかに、前認定のとおり、本件駐車場内には分電盤やマンホール等の設備が存し、これらは区分所有者らの共用に供されるものであり、更に、本件駐車場の一部にはごみ用ポリバケツ置場があり、また、本件マンションの居住者が中庭に行くためには通常は本件駐車場を通らざるを得ないものである。
しかし、<1>右共用設備部分は本件駐車場のうちのごくわずかな部分を占めるに過ぎず、その余の部分は排他的使用に供され得るものであり、<2>また、本件マンションの居住者がごみを置きに行きあるいは中庭に行くためには本件駐車場を通るであろうが、それは長時間にわたるものではなく、したがって、そのような通行の負担があるからといって本件駐車場が駐車場としての排他的使用を格別制限されるわけでもないのである。
(三) そうとすると、本件駐車場は、専有部分として区分所有権の目的となり得るものと解するのが相当である。
したがって、原告の本件駐車場に関する請求は認容することができない。
2 本件居室について
前認定のとおり、本件居室は廊下への固有の出入口がなく、廊下へ出るためには隣接する管理事務所(規約共用部分である。)を通らざるを得ない。また、本件居室は、その構造上、管理事務所と一体となって使用されることが予定されているものということことができる。
そうとすると、本件居室は、たとえ法一条にいう構造上区分された建物部分にあたるとしても、独立して建物としての用途に供することができる部分にはあたらないものというべきであって、区分所有権の目的とはならないものというべきである。
したがって、原告の本件居室に関する請求は正当として認容することができる。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 原田敏章)
別紙 物件目録(一)
(一棟の建物の表示)
所在 品川区北品川五丁目七〇八番地一
建物の番号 セザール御殿山
構造 鉄筋コンクリート造陸屋根六階建
床面積
一階 八二五・九一平方メートル
二階 八四九・七八平方メートル
三階 八四九・七八平方メートル
四階 八四九・七八平方メートル
五階 八四九・七八平方メートル
六階 八一六・九〇平方メートル
(専有部分の建物表示)
家屋番号 北品川五丁目七〇八番一の八八
建物の番号 一〇九
種類 駐車場
構造 鉄筋コンクリート造一階建
床面積 一階部分 三二〇・三七平方メートル
別紙 物件目録(二)
(一棟の建物の表示)
所在 品川区北品川五丁目七〇八番地一
建物の番号 セザール御殿山
構造 鉄筋コンクリート造陸屋根六階建
床面積
一階 八二五・九一平方メートル
二階 八四九・七八平方メートル
三階 八四九・七八平方メートル
四階 八四九・七八平方メートル
五階 八四九・七八平方メートル
六階 八一六・九〇平方メートル
(専有部分の建物表示)
家屋番号 北品川五丁目七〇八番一の八七
建物の番号 一〇四
種類 居宅
構造 鉄筋コンクリート造一階建
床面積 一階部分 一九・七〇平方メートル
別紙 一階平面図<省略>